READING SECTION 1
| サイト: | 初級日本語レッスン |
| コース: | 初級日本語レッスン |
| ブック: | READING SECTION 1 |
| 印刷者: | |
| 日付: | 2025年 12月 7日(日曜日) 20:43 |
説明
これは、ビギナーのための にほんごの よみかたの れんしゅうの ための ぶんしょう です。
1. めぐみへの手紙「お母さんは84歳になりました」
1. めぐみへの手紙「お母さんは84歳になりました」
めぐみちゃん、こんにちは。そう、のんきに呼びかけるのも戸惑う思いです。元気にしていますか。今年もあっという間に2月です。お母さんは4日で84歳になりました。どんどん年を取るだけで、誕生日はちっともうれしくありません。けれど、めぐみちゃんはきっと、明るく祝ってくれるはずです。「すごい、おばあちゃんになっちゃったね!」とおちゃめに笑い、抱きついてくる姿を、心に思い描いています。
お母さんは今、一生懸命に毎日を生きています。体中に衰えを感じ、日々しんどく感じます。そして、病院で必死にリハビリするお父さんの姿を見ると、「一刻も早く、めぐみと会わせてあげなければ」という焦りで全身がしびれます。
これが老いの現実です。お父さんと、お母さんだけではありません。すべての家族が老い、病み、疲れ果てながら、それでも、被害者に祖国の土を踏ませ、抱き合いたいと願い、命の炎を燃やしているのです。
私たちに、残された時間は本当にわずかです。全身全霊で闘ってきましたが、もう長く、待つことはかないません。その現実を、政治家や官僚の皆さまは、どう考えておられるのでしょうか。私たちはテレビで、のどかにさえ見える方々の姿を、見つめ続けています。皆さまには、拉致の残酷な現実をもっと、直視していただきたいのです。
次の誕生日こそ、あなたと一緒に祝いたい。それを実現させるのは、日本国であり、政府です。政治のありようを見ると、「本当に解決するのか。被害者帰国の道筋を考えているのか」と不安や、むなしささえ、感じることがあります。
「なんの罪なく拉致されたままの子供を、肉親を、返してください」-。この簡単な思いがかなわず、絶望的なほど長い時が過ぎてしまった現実に、拉致事件の闇の深さを感じます。そこに、光を差さなければなりません。令和という時代に初めて迎えた誕生日に、被害者全員の一刻も早い救出の願いを込め、日本の明るい未来を祈ります。
めぐみと一緒に過ごせたのは、あなたが13歳になるまでのわずかな時間でしたが、生まれたばかりのあなたを抱き上げた瞬間から、たくさんの幸せをもらいました。本当にかけがえのない、宝物だった。今、めぐみが拉致されるまでの明るい日常を思い出すたび、そう実感します。そんなあなただからこそ、必ず、天の大きな力と、多くの皆さまに守られ、教えられ、生き抜いているはずです。
お父さんも、お母さんも拉致事件をどうすれば解決できるのか、考えない日はありません。日本と北朝鮮の最高指導者が真剣に向き合い、平和と幸せな未来について話し合う。その日が、すぐにでも来るような気がしていましたが、事態は静まり返っています。
めぐみちゃんたちはこの瞬間も、日本が助け出してくれると信じて、厳寒の北朝鮮で耐えていることでしょう。それを思い浮かべ、日々の暮らしの中でも、新聞やテレビのニュースに目を奪われます。でも、国会などを見ていると、拉致事件が取り上げら
れ力の限り論じ合っていただきたいと願わずにはいられません。安倍晋三首相には決意を貫き、すべての拉致被害者を救い出して、祖国の土を踏ませていただきたいと思います。
拉致事件は、国家犯罪であるとともに、人の原罪そのものです。「他国より強くありたい」「奪い取ってやる」。そんな願望がいさかいを呼び、戦争を起こしているのではないでしょうか。めぐみたち拉致被害者も私たち家族も、拉致という非道極まりない北朝鮮の「罪」によって、人生の多くを奪われてきました。
北朝鮮は数多の国民が飢えに苦しみながらなお、軍備にお金を注ぎ続けています。そして、多くの拉致被害者が捕らわれたままなのです。それが果たして、幸福でしょうか。最高指導者には、どうか、このことに思いを致し、幸せな世界を思い描き、実現させてほしいと願います。決して、難しい決断ではないはずです。
拉致事件は想像を超えることが起こります。平成14年、蓮池さん夫妻、地村さん夫妻、曽我ひとみさんが帰国したときも、そうでした。「本当に生きていたんだ」。飛行機から降りる5人の姿を見たとき、本当に驚き、希望も湧きました。
北朝鮮は、めぐみたちを「死亡」や「未入境」と偽りました。めぐみの偽の遺骨まで送ってきました。でも、お父さんもお母さんも、被害者全員が、きっと生きていると信じています。かつては長い間、拉致事件の存在さえ否定する声がありました。しかし、非道な拉致は確かに存在し、長い沈黙を経て、若者たちが生還を果たしたのです。
たけり狂う暴風にさらされながら、今日まで何とか生きてくることができました。めぐみと同じように、大きな力に支えられ、生かされてきたことに、感謝するばかりです。私たちは一人ではありません。だからお母さんは、すべての皆さまのことを思い、今日も祈ります。
すべての被害者を日本に帰国させるためには、とてつもないエネルギーが必要です。日本自らが立ち上がるのはもちろんのこと、世界中の勇気、愛、正義の心が必要です。今一度、北朝鮮で捕らわれ救いを待つ拉致被害者のことを心に描いてください。そして、思いを、声にしていただきたいと願います。
めぐみちゃん。お父さん、弟の拓也、哲也と一緒に楽しく暮らした日々を取り戻すため、お母さんは全力を尽くします。84歳の誕生日を迎え、その思いはみじんも揺るぎません。どうか健康に気を付けて、強い望みをもって、元気でいてくださいね。
2. 手袋を買いに(新美南吉)
手袋を買いに
新美南吉
寒い冬が北方から、狐の親子の棲んでいる森へもやって来ました。
或朝洞穴から子供の狐が出ようとしましたが、
「あっ」と叫んで眼を抑えながら母さん狐のところへころげて来ました。
「母ちゃん、眼に何か刺さった、ぬいて頂戴早く早く」と言いました。
母さん狐がびっくりして、あわてふためきながら、眼を抑えている子供の手を恐る恐るとりのけて見ましたが、何も刺さってはいませんでした。母さん狐は洞穴の入口から外へ出て始めてわけが解りました。昨夜のうちに、真白な雪がどっさり降ったのです。その雪の上からお陽さまがキラキラと照していたので、雪は眩しいほど反射していたのです。雪を知らなかった子供の狐は、あまり強い反射をうけたので、眼に何か刺さったと思ったのでした。
子供の狐は遊びに行きました。真綿のように柔かい雪の上を駈け廻ると、雪の粉が、しぶきのように飛び散って小さい虹がすっと映るのでした。
すると突然、うしろで、
「どたどた、ざーっ」と物凄い音がして、パン粉のような粉雪が、ふわーっと子狐におっかぶさって来ました。子狐はびっくりして、雪の中にころがるようにして十米も向こうへ逃げました。何だろうと思ってふり返って見ましたが何もいませんでした。それは樅の枝から雪がなだれ落ちたのでした。まだ枝と枝の間から白い絹糸のように雪がこぼれていました。
間もなく洞穴へ帰って来た子狐は、
「お母ちゃん、お手々が冷たい、お手々がちんちんする」と言って、濡れて牡丹色になった両手を母さん狐の前にさしだしました。母さん狐は、その手に、は――っと息をふっかけて、ぬくとい母さんの手でやんわり包んでやりながら、
「もうすぐ暖くなるよ、雪をさわると、すぐ暖くなるもんだよ」といいましたが、かあいい坊やの手に霜焼ができてはかわいそうだから、夜になったら、町まで行って、坊やのお手々にあうような毛糸の手袋を買ってやろうと思いました。
暗い暗い夜が風呂敷のような影をひろげて野原や森を包みにやって来ましたが、雪はあまり白いので、包んでも包んでも白く浮びあがっていました。
親子の銀狐は洞穴から出ました。子供の方はお母さんのお腹の下へはいりこんで、そこからまんまるな眼をぱちぱちさせながら、あっちやこっちを見ながら歩いて行きました。
やがて、行手にぽっつりあかりが一つ見え始めました。それを子供の狐が見つけて、
「母ちゃん、お星さまは、あんな低いところにも落ちてるのねえ」とききました。
「あれはお星さまじゃないのよ」と言って、その時母さん狐の足はすくんでしまいました。
「あれは町の灯なんだよ」
その町の灯を見た時、母さん狐は、ある時町へお友達と出かけて行って、とんだめにあったことを思出しました。およしなさいっていうのもきかないで、お友達の狐が、或る家の家鴨を盗もうとしたので、お百姓に見つかって、さんざ追いまくられて、命からがら逃げたことでした。
「母ちゃん何してんの、早く行こうよ」と子供の狐がお腹の下から言うのでしたが、母さん狐はどうしても足がすすまないのでした。そこで、しかたがないので、坊やだけを一人で町まで行かせることになりました。
「坊やお手々を片方お出し」とお母さん狐がいいました。その手を、母さん狐はしばらく握っている間に、可愛いい人間の子供の手にしてしまいました。坊やの狐はその手をひろげたり握ったり、抓って見たり、嗅いで見たりしました。
「何だか変だな母ちゃん、これなあに?」と言って、雪あかりに、またその、人間の手に変えられてしまった自分の手をしげしげと見つめました。
「それは人間の手よ。いいかい坊や、町へ行ったらね、たくさん人間の家があるからね、まず表に円いシャッポの看板のかかっている家を探すんだよ。それが見つかったらね、トントンと戸を叩いて、今晩はって言うんだよ。そうするとね、中から人間が、すこうし戸をあけるからね、その戸の隙間から、こっちの手、ほらこの人間の手をさし入れてね、この手にちょうどいい手袋頂戴って言うんだよ、わかったね、決して、こっちのお手々を出しちゃ駄目よ」と母さん狐は言いきかせました。
「どうして?」と坊やの狐はききかえしました。
「人間はね、相手が狐だと解ると、手袋を売ってくれないんだよ、それどころか、掴まえて檻の中へ入れちゃうんだよ、人間ってほんとに恐いものなんだよ」
「ふーん」
「決して、こっちの手を出しちゃいけないよ、こっちの方、ほら人間の手の方をさしだすんだよ」と言って、母さんの狐は、持って来た二つの白銅貨を、人間の手の方へ握らせてやりました。
子供の狐は、町の灯を目あてに、雪あかりの野原をよちよちやって行きました。始めのうちは一つきりだった灯が二つになり三つになり、はては十にもふえました。狐の子供はそれを見て、灯には、星と同じように、赤いのや黄いのや青いのがあるんだなと思いました。やがて町にはいりましたが通りの家々はもうみんな戸を閉めてしまって、高い窓から暖かそうな光が、道の雪の上に落ちているばかりでした。
けれど表の看板の上には大てい小さな電燈がともっていましたので、狐の子は、それを見ながら、帽子屋を探して行きました。自転車の看板や、眼鏡の看板やその他いろんな看板が、あるものは、新しいペンキで画かれ、或るものは、古い壁のようにはげていましたが、町に始めて出て来た子狐にはそれらのものがいったい何であるか分らないのでした。
とうとう帽子屋がみつかりました。お母さんが道々よく教えてくれた、黒い大きなシルクハットの帽子の看板が、青い電燈に照されてかかっていました。
子狐は教えられた通り、トントンと戸を叩きました。
「今晩は」
すると、中では何かことこと音がしていましたがやがて、戸が一寸ほどゴロリとあいて、光の帯が道の白い雪の上に長く伸びました。
子狐はその光がまばゆかったので、めんくらって、まちがった方の手を、――お母さまが出しちゃいけないと言ってよく聞かせた方の手をすきまからさしこんでしまいました。
「このお手々にちょうどいい手袋下さい」
すると帽子屋さんは、おやおやと思いました。狐の手です。狐の手が手袋をくれと言うのです。これはきっと木の葉で買いに来たんだなと思いました。そこで、
「先にお金を下さい」と言いました。子狐はすなおに、握って来た白銅貨を二つ帽子屋さんに渡しました。帽子屋さんはそれを人差指のさきにのっけて、カチ合せて見ると、チンチンとよい音がしましたので、これは木の葉じゃない、ほんとのお金だと思いましたので、棚から子供用の毛糸の手袋をとり出して来て子狐の手に持たせてやりました。子狐は、お礼を言ってまた、もと来た道を帰り始めました。
「お母さんは、人間は恐ろしいものだって仰有ったがちっとも恐ろしくないや。だって僕の手を見てもどうもしなかったもの」と思いました。けれど子狐はいったい人間なんてどんなものか見たいと思いました。
ある窓の下を通りかかると、人間の声がしていました。何というやさしい、何という美しい、何と言うおっとりした声なんでしょう。
「ねむれ ねむれ
母の胸に、
ねむれ ねむれ
母の手に――」
子狐はその唄声は、きっと人間のお母さんの声にちがいないと思いました。だって、子狐が眠る時にも、やっぱり母さん狐は、あんなやさしい声でゆすぶってくれるからです。
するとこんどは、子供の声がしました。
「母ちゃん、こんな寒い夜は、森の子狐は寒い寒いって啼いてるでしょうね」
すると母さんの声が、
「森の子狐もお母さん狐のお唄をきいて、洞穴の中で眠ろうとしているでしょうね。さあ坊やも早くねんねしなさい。森の子狐と坊やとどっちが早くねんねするか、きっと坊やの方が早くねんねしますよ」
それをきくと子狐は急にお母さんが恋しくなって、お母さん狐の待っている方へ跳んで行きました。
お母さん狐は、心配しながら、坊やの狐の帰って来るのを、今か今かとふるえながら待っていましたので、坊やが来ると、暖い胸に抱きしめて泣きたいほどよろこびました。
二匹の狐は森の方へ帰って行きました。月が出たので、狐の毛なみが銀色に光り、その足あとには、コバルトの影がたまりました。
「母ちゃん、人間ってちっとも恐かないや」
「どうして?」
「坊、間違えてほんとうのお手々出しちゃったの。でも帽子屋さん、掴まえやしなかったもの。ちゃんとこんないい暖い手袋くれたもの」
と言って手袋のはまった両手をパンパンやって見せました。お母さん狐は、
「まあ!」とあきれましたが、「ほんとうに人間はいいものかしら。ほんとうに人間はいいものかしら」とつぶやきました。
3. ごんぎつね
ごん狐
新美南吉
これは、
むかしは、私たちの村のちかくの、
その中山から、少しはなれた山の中に、「ごん
雨があがると、ごんは、ほっとして穴からはい出ました。空はからっと晴れていて、
ごんは、村の
ふと見ると、川の中に人がいて、何かやっています。ごんは、見つからないように、そうっと草の深いところへ歩きよって、そこからじっとのぞいてみました。
「
しばらくすると、兵十は、はりきり網の一ばんうしろの、袋のようになったところを、水の中からもちあげました。その中には、芝の根や、草の葉や、くさった木ぎれなどが、ごちゃごちゃはいっていましたが、でもところどころ、白いものがきらきら光っています。それは、ふというなぎの腹や、大きなきすの腹でした。兵十は、びくの中へ、そのうなぎやきすを、ごみと一しょにぶちこみました。そして、また、袋の口をしばって、水の中へ入れました。
兵十はそれから、びくをもって川から
兵十がいなくなると、ごんは、ぴょいと草の中からとび出して、びくのそばへかけつけました。ちょいと、いたずらがしたくなったのです。ごんはびくの中の魚をつかみ出しては、はりきり網のかかっているところより
一ばんしまいに、太いうなぎをつかみにかかりましたが、何しろぬるぬるとすべりぬけるので、手ではつかめません。ごんはじれったくなって、頭をびくの中につッこんで、うなぎの頭を口にくわえました。うなぎは、キュッと言ってごんの首へまきつきました。そのとたんに兵十が、向うから、
「うわアぬすと狐め」と、どなりたてました。ごんは、びっくりしてとびあがりました。うなぎをふりすててにげようとしましたが、うなぎは、ごんの首にまきついたままはなれません。ごんはそのまま横っとびにとび出して一しょうけんめいに、にげていきました。
ほら穴の近くの、はんの木の下でふりかえって見ましたが、兵十は追っかけては来ませんでした。
ごんは、ほっとして、うなぎの頭をかみくだき、やっとはずして穴のそとの、草の葉の上にのせておきました。
「ふふん、村に何かあるんだな」と、思いました。
「
こんなことを考えながらやって来ますと、いつの
「ああ、葬式だ」と、ごんは思いました。
「兵十の家のだれが死んだんだろう」
お
やがて、白い着物を着た葬列のものたちがやって来るのがちらちら見えはじめました。
ごんはのびあがって見ました。兵十が、白いかみしもをつけて、
「ははん、死んだのは兵十のおっ
ごんはそう思いながら、頭をひっこめました。
その晩、ごんは、穴の中で考えました。
「兵十のおっ母は、
兵十が、赤い井戸のところで、麦をといでいました。
兵十は今まで、おっ母と
「おれと同じ一人ぼっちの兵十か」
こちらの
ごんは物置のそばをはなれて、向うへいきかけますと、どこかで、いわしを売る声がします。
「いわしのやすうりだアい。いきのいいいわしだアい」
ごんは、その、いせいのいい声のする方へ走っていきました。と、
「いわしをおくれ。」と言いました。いわし
ごんは、うなぎのつぐないに、まず一つ、いいことをしたと思いました。
つぎの日には、ごんは山で
「一たいだれが、いわしなんかをおれの家へほうりこんでいったんだろう。おかげでおれは、
ごんは、これはしまったと思いました。かわいそうに兵十は、いわし屋にぶんなぐられて、あんな傷までつけられたのか。
ごんはこうおもいながら、そっと物置の方へまわってその入口に、栗をおいてかえりました。
つぎの日も、そのつぎの日もごんは、栗をひろっては、兵十の家へもって来てやりました。そのつぎの日には、栗ばかりでなく、まつたけも二、三ぼんもっていきました。
月のいい晩でした。ごんは、ぶらぶらあそびに出かけました。中山さまのお城の下を通ってすこしいくと、細い道の向うから、だれか来るようです。話声が聞えます。チンチロリン、チンチロリンと松虫が鳴いています。
ごんは、道の片がわにかくれて、じっとしていました。話声はだんだん近くなりました。それは、兵十と
「そうそう、なあ加助」と、兵十がいいました。
「ああん?」
「おれあ、このごろ、とてもふしぎなことがあるんだ」
「何が?」
「おっ母が死んでからは、だれだか知らんが、おれに栗やまつたけなんかを、まいにちまいにちくれるんだよ」
「ふうん、だれが?」
「それがわからんのだよ。おれの知らんうちに、おいていくんだ」
ごんは、ふたりのあとをつけていきました。
「ほんとかい?」
「ほんとだとも。うそと思うなら、あした見に
「へえ、へんなこともあるもんだなア」
それなり、二人はだまって歩いていきました。
加助がひょいと、
「おねんぶつがあるんだな」と思いながら井戸のそばにしゃがんでいました。しばらくすると、また三人ほど、人がつれだって吉兵衛の家へはいっていきました。お経を読む声がきこえて来ました。
ごんは、おねんぶつがすむまで、井戸のそばにしゃがんでいました。兵十と加助は、また一しょにかえっていきます。ごんは、二人の話をきこうと思って、ついていきました。兵十の
お城の前まで来たとき、加助が言い出しました。
「さっきの話は、きっと、そりゃあ、神さまのしわざだぞ」
「えっ?」と、兵十はびっくりして、加助の顔を見ました。
「おれは、あれからずっと考えていたが、どうも、そりゃ、人間じゃない、神さまだ、神さまが、お前がたった一人になったのをあわれに思わっしゃって、いろんなものをめぐんで下さるんだよ」
「そうかなあ」
「そうだとも。だから、まいにち神さまにお礼を言うがいいよ」
「うん」
ごんは、へえ、こいつはつまらないなと思いました。おれが、栗や松たけを持っていってやるのに、そのおれにはお礼をいわないで、神さまにお礼をいうんじゃア、おれは、引き合わないなあ。
そのあくる日もごんは、栗をもって、兵十の家へ出かけました。兵十は物置で
そのとき兵十は、ふと顔をあげました。と狐が家の中へはいったではありませんか。こないだうなぎをぬすみやがったあのごん狐めが、またいたずらをしに来たな。
「ようし。」
兵十は立ちあがって、
そして足音をしのばせてちかよって、今戸口を出ようとするごんを、ドンと、うちました。ごんは、ばたりとたおれました。兵十はかけよって来ました。家の中を見ると、
「おや」と兵十は、びっくりしてごんに目を落しました。
「ごん、お
ごんは、ぐったりと目をつぶったまま、うなずきました。
兵十は火縄銃をばたりと、とり落しました。青い煙が、まだ